2002年1月9日水曜日

音の良いホールと札幌のキタラ

札響のニューイヤーコンサートに桂札幌市長が聴きにいらしており、キタラの音響の良さを説明されていた。いわく、昨年欧州のある団体が世界のホールの調査をした。結果として、調査した中で一番音響が良かったのは札幌のキタラ、次にベルリンのフィルハーモニー・ホール、三番目がサントリーホールであった、とのこと。

調査の詳細が分からないのでコメントできないが、キタラの音響の良さは尾高氏も声高に主張しているし、お世辞もあろうが、キタラで演奏した演奏家が口を揃えていることでもある。

サントリーホールもキタラも、音響設計においては世界的にもおそらく有名な永田音響設計が担当している、音響設計者が同じなのだ。しかし、同じホールは二つと存在しない。私はサントリーホールで何度か聴いた印象だと、サントリーの方が勝っているように思っている。それは特に1階席で顕著である。キタラの場合は、例えばマーラーなどの巨大な曲の音が頭上を超えて飛んでいってしまうように感じる。一方でサントリーの1階席は、音響の波を全身で受けるかのような迫力で、すさまじい音の洪水が飛び込んでくる。演奏家など同一条件での比較ではないので、あくまでも印象でしかないのだが、両者を聴かれた方はいかがであろう。

それにしても、世界一かどうかはさておき、キタラの音響が良いことには同意するものだ。音の良さを物理的に表現することは難しい。音響特性においては、よく残響時間が問題にされる。正確を期すために、「音響技術」(日本音響材料協会)No.101(vol.27 no.1 1998.3)に「札幌コンサートホールの音響設計」と題して、永田音響設計の豊田泰久氏が投稿していたので紹介したい。

ちなみに私は建築音響工学の専門家ではないので用語の解説は省略する。これを読むと、単に500Hz残響時間だけを云々することが、ひとつの目安ではあるものの、それにより音響的な特徴を述べていることにはならないことに気づかれるだろう。

------- 以下、「音響技術」より(本文をアレンジして転載)-------

1.大ホール

御存知のとおり、アリーナ型のホールですが、これは札響およびPMFメンバー他有識者との検討の中で、大阪のザ・シンフォニーホール、東京のサントリーホールの印象が良かったことから、コンペ要項に盛り込まれた。

2.室形状

天井全体の基本的な形状は、ベルリン・フィルハーモニーやサントリーホールと同様の、ホール中央部で最も高い山形形状を採用している。天井は反射音を重視して、15cm厚のコンクリート板となってる。
 ステージ上の演奏者とステージ近傍の客席に時間遅れの小さい初期反射音を分布 させるために、ステージ上部に一体吊り下げ型音響反射板を設置。反射板は、繊維 強化せっこうボードの5枚積層したものを使用。ベルリン、サントリーなども同様 の考え方であるが、本ホールでは小型の反射板をいくつか吊すのではなく、全体が 一体となった大型の反射板としている。これは、低音域にまで効果的になるように 意図したためである。

3.室容積

ホールの諸元は表1のとおり。室形状の検討に当たり、客席全体にわたり有効な初期反射音が得られる形状とすることを最優先とした結果、室容積は28,800m3と大きなものとなった。これ は同規模のサントリーホールなどを上回る数値である。ホールの室容積は、通常10m3/席が望ましいとされている。最近は、室容積 は大きくなる傾向にあり、KITARAも14m3程度と従来の推奨値を上回る数値となっている(表2)。 しかしながら、この値ははホールの形状や客席の寸法などに大きく影響を受けため 一つの目安に過ぎないと考えるべきである。

表1 大ホール諸元

室容積室表面積
 
8,200m2
 
客室数
 
2,008席

気積
 
14.3m3/席
 
最大長
 
60m

最大幅
 
50m

最大高さ(舞台面から)
 
22m

舞台最大幅
 
22.5m

舞台最大奥行
 
13.5m
 
舞台面積
 
275m2
   

表2 類似ホールの室容積、気積の比較
 
ホール名
 
客室数
 
室容積(m3
 
気積(m3/席)
 
サントリーホール(86)
 
2,006
 
21,000
 
10.5
 
東京芸術劇場(90)
 
2,015
 
25,000
 
12.5
 
札幌 コンサートホール (97)
 
2,008
 
28,800
 
14.3
 
ディズニー・コンサートホール(01予)
 
2,350
 
32,000
 
13.6

4.音響特性

残響時間の測定結果は、空席時2.2秒、満席時2.0秒(500Hz)であり、 大ホールにおいては、空席時と満席時の差が小さいことが際立っている。これは、 客席のクッションを通常よりも厚手のものを採用したためである。
 残響時間の周波数特性も、250から2kHzまで、ほとんど平坦な特性、 63から125Hz域においては、若干長めとなっており、当初の設計のねらいの 通りである。ちなみに、空調騒音については、NC15以下、スピーチ明瞭度指数(STI) は、0.46~0.54でFairの結果を得ている。

◇   ◇   ◇   ◇

最後に、筆者は、ホールというものは、ハード面ばかりではなくソフトがあって こそ成り立つもので、今回はPMFと地元を代表する札響の存在意義が非常に大き いことに言及し、欧米のホールのレジデント・オーケストラの存在に触れた上で、本ホールと札響の今後 の活動に期待を寄せている。