2002年4月24日水曜日

フェルマータコンサート 山崎 衆&武川 奈穂子

日時:2002年4月22日(月)19時00~21時00時
場所:カフェ フェルマータ(札幌芸術の森 入口前 011-592-9131)
演奏:山崎 衆(フルート)*1)、武川 奈穂子*2)

J.S.バッハ: ソナタ 変ホ長調
ヘンデル: ラルゴ
ドニゼッティ: ソナタ ト長調
ドビュッシー: シリンクス(フルート独奏
フォーレ: シシリエンヌ
フォーレ: コンクール用小品
シュテックメスト: 「歌の翼」による幻想曲
休憩
イベール: 間奏曲
アッセルマン: 泉(ハープ独奏)
ニールセン: The Fog is Lifting
ドップラー=ザマーラ: カジルダ幻想曲
ドップラー: 愛のうた
アンコール
山田耕作: この道
ドップラー: 森の小鳥

山崎衆さんと武川奈穂子さんのデュオコンサートが、札幌芸術の森のすぐ目の前の喫茶店で催された。2階も含めて40人も入ると満席になってしまうような開場であったが、演奏は行く前に考えていた以上のものであった。演奏会が終わった後に誰かと話したくなる演奏と、ひとり静かに演奏を反芻してい演奏とがあるが、今日の演奏は後者のもので、久々に充実したひとときを過ごすことができた。演奏者には感謝の意を称したい。

山崎さんの演奏を聴くのは三度目、武川さんは始めてである。曲目は上記のようであったが、客層(高齢の女性が多い)に合わせてか、親しみやすい曲目が並ぶ。しかし量的には休憩をはさんで2時間、ものすごい密度の演奏ではあった。

山崎さんはご存知の方も多いだろうが、フランスのルイ・ロットという19世紀後半から20世紀前半にかけて製作されたフルート(木管、銀管)を吹く。ルイ・ロットに関する造詣においても日本で屈指の方ではないかと思う。ロットの銀管は現在のモダンフルートと見た目は変わるところがないのだが、音色においては現代のフルートとは少し性格を異にしている。オケの中で音量を確保するために改造されたモダンフルートと木管の響きの間に位置すると言うのは、素人の乱暴な説明だとは思うものの、まあそういう感じである。彼はロットの音色に関しては非常にこだわりを持っていると聞く。

武川さんは、今日始めて聴かせていただいた。楽器は札響のハープを借りての演奏である。彼女は「(ハーピストは楽器の移動が大変なので、私は山崎さんのように)楽器そのもに関しては詳しくはない、むしろどんな音楽を奏でるかの方に興味がある」と話していた。

さて、そういう二人での演奏はバッハのソナタから開始された。ここで山崎さんは木管(初代ルイ・ロット 1871年製作 円錐管)を用いて演奏した。山崎さんの言を借りるならば、「バッハなどの演奏は、本来はトラベルソを使いたいところだが、(1キーシステムであり)指使いが難しい。しかし金属で吹くよりはベーム式(モダンフルートと同じキーシステムの楽器)の木管で吹くことを好む」とのこと。最近では、日本の工藤さんや細川さんを筆頭に木管フルートがブームではあるが。

このバッハは、いい表現ではないと思うが「枯れた風情のバッハ」であった。木管だけあって、きらびやかさよりも明るさとぬくもりのある音ではあるが、さらにそこに独特の音がかぶさる。低音で幾分くぐもったように、中音も独特の音に聴こえるが、それは会場のせいだけではないかもしれない。しかし、その暖かみのある音色は独特であり、その音に慣れてくると、緩やかな音楽の流れに身を任せることが、この上なく心地よいもとなる。ヘンデルのラルゴも、非常にポピュラーな曲、「ウィスキーのCFでキャスリン・バトルが歌っていた曲です」と解説をして始めたが、これもゆったりとした中に、大きな流れを感じさせるような悠久の時間が流れてゆく。一方で、この音色と対比した場合、バランス的にハープの伴奏は少し金属的に響きすぎると感じた。

ドビュッシーのシリンクスは、同じ木管でも円筒管に持ち替えての演奏である。こちらもロットであるが、1900年初頭の楽器であり、先の木管よりも響きが大きくなっているのを聴くことができた。先の円錐管では音量やパワーの点で、多少物足りなさを感じるが、こちらはシリンクスには十分なものである。フルート関係者にポピュラーなこの曲は1912年の作、ドビュッシーの頃は銀管も製作されてはいたが、木管フルートもずいぶん製作されていたとのこと。木管でシリンクスか、と少し意外な思いにとらわれていたのだが、奏でられた音楽には少なからぬ驚きを覚えた。最初の一音からして何かが違うのだ。木管の抑制された音色が、逆にシリンクスの焦がれる気持ちやら悲しさを如実に伝えるかのようで、全身に鳥肌が立つような音楽であった。

ここで、以前にパユの演奏するシリンクスを聴いたことを思い出した。あの時は、パユの硬質の音がサントリーの隅々まで浸透し、水を打ったような冷ややかにして透明な世界が現出して驚いたものだ。今回の演奏は雰囲気が全く違う、パユは全面に感情を歌い上げているのに対し、山崎さんは草葉の陰から想いを寄せるような雰囲気なのだ。これはこれで強烈なシリンクスだ。全く見当はずれな解釈かもしれないが、そういうふうに聴こえた(演奏を受け手がどう勘違いしようと自由なのだ、ワハハ参ったか)

今日は長いな、少し休憩しようか・・・・(^^;;;

さて、演奏の方も休憩をはさみ、次には銀管に持ち替えての演奏となった。銀管とは言ってもやはりこちらもルイ・ロット(初代 No.1850 1873年製)の楽器である。

最初に奏でられた曲はイベールの間奏曲。アレグロの強い音から開始されるのであるが、今までの木管の柔らかな響きとは性格を異にした音色表現で、激しさとスピード感あふれる演奏であった。その音楽表現の差の演出は憎いばかりで、颯爽と吹きぬける風のような演奏であった。ここに至ってはハープとの相性も良い、武川さんの演奏は粒立ち、すばらしくスリリングなデュオであった。出だしの部分の中高音域の音はまだ耳について離れない。

しかし、ここでもなのだ、イベールを吹いてもと言うべきか、山崎さんの奏でるロットは、強く押し付けがましくはない。変な言い方をさせてもらえば、高音域であっても聴いていて疲れないのだ。それは、包まれるかのような音色だったり、漂よう羽衣のようだったり、天から降り注ぐ柔らかな光のようだったり、何と表現したら良いのか適切な言葉が浮かばない、とにかく心地良いのだ。誤解されると困るが、そのように感じることの裏返しとして、表現としての幅が狭いとかいとか、パワー(音量)が足りないとか、芯が細いと言うことなのではない。

ルイ・ロットは現代の「大きな音」の出る楽器と比べると、絶対的なパワー(音量)はないのかもしれないが、「音」にそういう「パワー」が必要なんだろうかと思ってしまう。彼の奏でる音楽は、聴衆を捕らえてはなさない魅力を持ったもので、そこからは「音楽のもつパワー」というものが伝わってくる。その上で、その心地よさに浸ることで、いつまで聴いていても良いと思ってしまう、これを音楽の至福と言わずして何と言おうか。

「音」あるいは「音色」と「音楽」というものを微妙に混同しながら書いているきらいもあるが、雰囲気は分かっていただけるだろうか・・・

ここまで聴いていて気づいたことがある。山崎さんの音楽表現と音に関してなのだ。彼はどちらかというと、音楽の中に自分の主張を込めまくるというタイプではなさそうだ。出きるだけ音楽に忠実に演奏するということに神経を使っているように思える。ビブラートなどが抑制された音色やアクのない音楽の作り方にもそう言うものを感じる。とは言っても一辺倒な音楽であったり、W.ベネットのような端正が前面の音楽でもない。例えば(木管であっても銀管であっても)高音からトリルや速いパッセージで下降してくる音形の品のある表現など、全く持って惚れ惚れする。彼がオケの中でピッコロなどを吹くことが楽しいと感じているようなスタンスと、通じるものがあるのかもしれない(違っていたらメンゴ!!)

私がフルート吹きなので、フルートのことばかり書いて恐縮である。実は曲目も多すぎて、個々の演奏に付いてはさすがに覚えきれていない。またちょっと休もうか。

ハープの武川さんの演奏は聴くのが始めてだし、ハープの生演奏といえば吉野直子さんを二度ほど聴いたことがあるばかりなので、詳しいことはわからない。ただ、ハーピストは舞ちゃんもそうだが、みな美人であるなあと感心。

ヲヤジセクハラ発言はさておき、ハープというのは優雅で華麗というイメージがあるが、彼女の演奏は、粒がしっかりしていて力強い印象。表現の嫌味さが少なく、かっちりとした構成美とともに音楽を作ってくれるように感じた。ソロで演奏された「泉」も、ハープとしては有名な曲であるが、これまたとてつもなく素晴らしいものであった。

という具合に、二時間の演奏はあっという間に過ぎ去ったのであった。アンコールを含めて13曲、それぞれが小品であるとはいえ、非常に盛りだくさんな演奏会で、終わった後は「おなかいっぱい」という感じ。そして改めて、感動をかみしめるのであった(反芻動物かえ?)

アップする前に慎重に読み返してみたが、ちょっと思い入れの強いレビュになってしまっていることは自分でも認める。演奏会の雰囲気が覚めないうちに書いているので、まあご容赦願いたい。

ふーーーーっ、レビュ書くの疲れた、もうよろしいでしょうか。聴かれなかった方や山崎さんを知る方、雰囲気が分かったでしょうか(^^;;
一部の「関係者」の方におかれましては「何書いているんだか・・・まった分かってねーな」と思うことがあったら教えてください。

山崎 衆(フルーティスト)
東京藝術大学音楽学部器楽科卒業 その後ドイツ留学 札響在籍

武川 奈穂子(ハーピスト)
桐朋学園大卒業 パリ国立高等音楽院にてパープ専攻。ISSEKIミュージックスクールハープ教室主催

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