2002年11月26日火曜日

アムラン/カレイドスコープ


  1. エドナ・ベンツ・ウッズ:幻想的ワルツ(ヴァルス・ファンタスティーク)
  2. セルゲイ・ラフマニノフ:V Rのポルカ
  3. ヨーゼフ・ホフマン:夜想曲
  4. ヨーゼフ・ホフマン:カレイドスコープ(万華鏡)
  5. マルク=アンドレ・アムラン:練習曲第3番(パガニーニ=リスト「ラ・カンパネラ」に基づく)
  6. フェリクス・ブルーメンフェルド:左手独奏のための練習曲
  7. ジェイコブ・ギンペル:「海兵隊賛歌」による演奏会用パラフレーズ
  8. マルク=アンドレ・アムラン短調による練習曲第6番(ドメニコ・スカルラッティを讃えて)
  9. ジュール・マスネ:狂ったワルツ(ヴァルズ・フォル)
  10. モリッツ・モシュコフスキ:練習曲変イ短調
  11. フランシス・プーランク:間奏曲変イ長調
  12. レオポルド・ゴドフスキー:アルト・ウィーン
  13. アレクサンドル・ミシャロフスキ:ショパン「即興曲第1番」変イ長調に基づく練習曲
  14. アーサー・ルリエ:ジーグ
  15. エミール・ブランシェ:古い後宮の庭で
  16. アルフレート・カセッラ:「2つのコントラスト」――グラツィオーソ(ショパンを讃えて)
  17. アルフレート・カセッラ:「2つのコントラスト」――反グラツィオーソ
  18. ジョン・ヴァリアー:トッカティーナ
  19. アレクサンドル・グラズノフ:小アダージョ――バレエ音楽「四季」より
  20. ニコライ・カプースチン:トッカティーナ
  • ピアノ:マルク=アンドレ・アムラン
  • 録音:2001年2月、ヘンリー・ウッド・ホールでのデジタル録音
  • 英HYPERION CDA 67275(輸入版)
アムランのアンコールピースを集めた曲集だ。リストのパガニーニの主題による練習曲も技巧の冴えに驚いたものだが、この盤はそれを遥かに凌駕している(発売はリストの前のもの)。まさに空いた口がふさがらないという他ない。私の拙い感想よりも、まずはHMVによるレビュを読んでもらいたい。
ヴィルトゥオーゾ、アムランのアンコール・ピース集。このディスクはアムランならではのアンコール・ピースで、彼にしか弾けないような難易度の高い作品がぎっしり収められています。 たとえばアムラン自作の練習曲第3番は、パガニーニ=リストの「ラ・カンパネラ」を複雑にしたもので、リストの原曲より難易度もはるかに高くなっています。ギンペルの「海兵隊賛歌」はホロヴィッツ版「星条旗よ永遠なれ」の伝統を踏襲したかのような派手なパフォーマンスが聴きものです。 マスネの「狂ったワルツ」は昨年、一昨年のアムラン来日公演でのアンコール曲目。それこそ「狂ったように」難しい曲という印象です。最後のカプースチンも聴きものです。ロックのリズムを大胆に導入したこの「小トッカータ」には、すでにカプースチンの自作自演CDがリリースされていますが、アムランは作曲者本人と親交がある数少ないピアニストの一人なので、演奏内容も万全です。その他、表題にもなったヨゼフ・ホフマンの「万華鏡」や、ゴドフスキーの作品に至るまで、超絶技巧を前提にし、しかも親しみやすい作品が大量に収録されているのはピアノ好きには堪らないポイントと言えるでしょう。 (HMVサイトより引用)
こういう超絶技巧曲がいとも容易く弾かれるのを聴くと、個々の曲がどうだ、などという細かなことを論じる気さえなくなってしまう。そもそもこれらの曲は、アムランのアンコールピースなのだ。それにしても何と言うアンコールピースであることか!これぞ「体育会系ピアニズム」の極致と言えるかもしれない。

HMVの解説にもあるが、例えば耳慣れたリストの「ラ・カンパネラ」! リストの曲を知っている人も、パガニーニの原曲を知っている人も、肝を潰してしまうような音楽になっている。難しさという点ではなく、技術を駆使したその先のグロテスクなまでに変形させられた音楽の持つ、まがまがしくさえある強烈な魅力に驚いてしまう。

しかし仔細に聴いてみれば、アムランは技巧をひけらかすためだけにアンコールピース集を録音したととばかりにも思えない。リストの曲集でも感じたが、技巧派のレッテルにありがちな機械的な味気なさとは違うものを、アムランのピアニズムからは感じる。ピアノという楽器の能力を最大限にまで弾き出しているような演奏からは、アムランの偏執的とも思えるほどのピアノへの愛が伝わってはこないだろうか。

実際「狂ったように難しい曲」ばかりが納められているのではないのだ。たとえばMOSZKOWSKI(1854-1925)の練習曲やPOULENC(1899-1963)の間奏曲などは哀愁を帯びた美しさを湛えた小品であるし、GODOWSKY(1870-1938)の Alt Wien ('Old Vienna')や、GLAZUNOV(1865-1936)のバレエ音楽をもとにしてアムランがアレンジした「Petit Adagio」も、初めて聴くものにとってさえ、これらが愛すべき美しい曲であることを知らせてくれる。

最後のKAPUSTIN(1937-)の「Toccatina」は、CD解説に「Oscar Peterson ? No, a succinct and dizzying toccata by a Russian composer.」とあるように、ロックのリズムというよりは洒落たジャズ風の曲で楽しませてくれる。

まさにあっという間の、圧倒的な20曲だ。思わずブラボーと叫んでしまう。ピアノ曲を聴くという快感と醍醐味を存分に味わえる一枚と言えるかもしれない。