2006年5月14日日曜日

武満徹:A String around Autumn、Ceremonial/小澤&サイトウ・キネン


ア・ストリング・アラウンド・オータムはヴィオラを、セレモニアルは笙を伴った管弦楽曲です。1989年と1992年に発表された曲で、どちらも武満晩年の作であると同時に、どちらも「秋」をテーマにした曲となっています。セレモニアルは「秋に寄せ頌歌」という副題を持っています。初期の武満作品と比すと随分と聴きやすい音楽といえます。


ア・ストリング・アラウンド・オータムはヴィオラ独奏が前面に押し出され、非常にメロウでロマンティックな曲に仕上がっています。もはやヒーリング系音楽に近づいているかのようですが、良く聴くとそれぞれの音の響きは決して安易ではなく、ヴィオラとオーケストラの響きの反応と融合が実に見事です。


セレモニアルは日本楽器の笙を用いた曲ですが、これが用いられるのは曲の前半と後半のごく一部です。しかし笙の持つ暖かな音色は、この曲に独特の色彩を加えています。


最初はヴァイオリンのか細い、神経質な響きに導かれまて曲が始まります。この静寂と響きからは雅楽をイメージするかもしれません。この冒頭が独特の静けさや透明感、リリカルさといったものを音楽に付与しています。しばらくすると打楽器なども加わり音は重層的になりますが、それでも最初にイメージされた透明感は失われません。


挿入される笙の音色は、弦の響きとは対照的で一瞬の幻か夢のような印象を与えます。ゆったりと動く旋律線は、そよそよと野に揺れる薄をイメージするかもしれません。


90年代近くの武満氏の作品は、無調の現代音楽というよりは、音楽に旋律の流れが戻っているように聴こえます。とはいっても明確な物語性があるわけではなく、漂う響きの流れがより主体性を持ったという風に捉えることができます。あくまでも茫洋とした、とらえどころのなさは変わりありません。60年から70年の武満氏の音楽にこそ力があった、とする意見もありますが、私はやはり晩年の「聴き易い」作品の方が好きです。所詮、その程度の武満理解です。

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