2006年6月27日火曜日

直島めぐり【その2】地中美術館


安藤忠雄氏の地中美術館は2004年7月18日にオープンしました。クロード・モネの絵画とともに、現代美術作家であるジェームズ・タレル氏、ウォルター・デ・マリア氏の作品が常設展示されています。



建物のほとんどが「地中」に埋設されていること、そして今や世界的なとも言える建築家である安藤氏の建物そのものが「作品」になっていることなどから、建築関係者を越えて話題となりました。

予め写真や雑誌などで、建物の概要は掴んでいたつもりですが、実際に安藤氏の建築を「体験」してみますと、彼の作品の中でも群を抜いて素晴らしいと感じました。今年オープンした表参道ヒルズが、全くいいところなしであり落胆させられたのとは、えらい違いです。

表参道ヒルズは、そのプロセスそのものが「作品」であったというのが私の評価ですが、直島プロジェクトはプロセスと結果を含め彼の代表作足りえていると思います。安藤氏の作品は、商業的な垢にまみれてしまうより、建築が屹然として存在を主張できるカタチの方が合っているのでしょうか。建物を地面に埋めてしまうということは、究極の環境配慮なのか、環境に対する欺瞞と冒涜なのかは議論が分かれると思いますが・・・
ここに収められたモネの作品も、静謐な空間と柔らかな自然光によって生来絵が持っていた美しさと力を取り戻しているかのようです。モネの聖地ともいえる新装されたパリのオランジェリー美術館がどういった展示空間になっているのかは分かりませんが、今まで接したモネの中では、最も絵画に適した環境であると感じました。

モネは大好きな画家ですから、このような空間で睡蓮シリーズに接することができたことには深い喜びと至福さえ感じます。自然光に照らされた絵画は通俗名画的な俗悪性を一切脱ぎ去り、霊的な雰囲気さえ漂わせていました。

ここでの安藤氏の建築は非常に控えめで、作品の力を引き立てることに成功しているようです。安藤氏には珍しく、コンクリートには塗装を施し、室内の入隅部は曲線を用いています。床に敷きつめられた70万個にも及ぶ2cm角の大理石も静謐な空間を作ることに一役かっています。

ジェームズ・タレル(米国:1943年生まれ)の展示スペースのひとつである「オープン・スカイ」は、鋭利に切り取られた空と、そこから降り注ぐ光の変化を楽しむ空間芸術です(左写真)。これには全く驚かされました。ウォルター・デ・マリアの展示スペースも素晴らしい。(ジェームズ・タレルについてはエントリを改めます)



しかし何よりも一番驚いたのは、やはり安藤氏の建築そのものでした。特に三角コートを結ぶ回廊の壁を切り取る開口幅35cmのスリット(左、下写真)は驚きでしかありません。建築の持つ有無を言わさぬ説得力という点において圧倒的です。



印象派のモネも、展示されているのが晩年の睡蓮シリーズですから、もはや抽象絵画、光と色彩の洪水と称しても良いような作品。建築家の安藤氏と、モネや光の芸術家であるタレル氏などの現代美術が、違和感なく融合しているのも、ともにギリギリまでの純粋性を志向しているという点で共感しあうものがあるのでしょうか。



ちなみに、掲載した写真や図面は「あちこち」から無断転載したものです。