2008年11月16日日曜日

竹内一正:スティーブ・ジョブス 神の交渉力



iCON/スティーブ・ジョブス 偶像復活」を以前読んでいますから、本書から目新しい情報は得られません。ジョブスについて知っている人に本書は二番煎じの、初めて読む人には短い時間でのガイダンスなりえましょう。


既に充分に紹介されているジョブスのビジネスにおける「手口」とか「やり方」を紹介し、テーマごとに「貴方にもできそうなこと」を自己啓発所風にまとめているところが本書の特徴。ソニーの井深大や松下の松下幸之助などを、刺身のツマのように引き合いを出していますが、中途半端で雑な印象を受けます。



誰もがジョブスに敬意を示し、ジョブスに憧れたとしてもジョブスには到底なれない。ジョブスの前にジョブスなく、ジョブスの後にもジョブスなしです。


彼の性格を端的に表現する表現。


腕に覚えのないサラリーマンでは、ジョブスと働くのはムリだ。たちまち切って捨てられるだろう。ジョブスは、鋭利な刃物のような切れ味の人間だから、敵をなぎ倒し、問題を解決する過程で、まわりの人間まで切り刻むことがしばしばである。よくも悪くも、これがジョブス流だ。(P.70)


あるいは、


能力や野心が大きければ大きいほど、人はジョブスに惹きつけられる。そしてドアの内側に入れば、「ジョブス以外の人の下では働きたくない」と言い切る。一方で、ドアの外側に追い出されたら、「二度と絶対ジョブスとは働きたくない」と断言する。(P.91)


なぜ、人はジョブスに惹かれ、ジョブスから離れるのか。なぜビジネスの場で、ジョブスは相手を圧倒的に魅了してしまうのか。それはジョブスが、我々がかつて見たこともないようなモノを見せてくれることと、何かとてつもなくワクワクさせてくれるものを絶対に実現させるのだという強烈な意志があること。


ジョブスを「嫌い」「嫌な奴」と評する人は多いと思います。「野心」もなく凡百の才能しかない者が、いったいジョブスから何を学べるというのでしょう。絶対に実現させたいモノあるいはコトがあるのか。彼を知ることは、働くことの源泉に対する問いかけで、小手先の技術を幾ら並べたり、彼のやり口の好悪を評しても詮無いことではないかと。



本書はジョブスの有名な2005年スタンフォード大学での基調講演(→
Text of Steve Jobs' Commencement address(2005)~STNFORD NEWS SERVICE)
の言葉で締めくくっています。この演説は非常に感動的で、本書を読むよりも余程価値があります。

有名な「今日が人生最後の日であったら」の部分。


for the past 33 years, I have looked in the mirror every morning and asked myself: "If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?" And whenever the answer has been "No" for too many days in a row, I know I need to change something.

スタンフォードの学生に贈るメッセージ。


Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma ? which is living with the results of other people's thinking. Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.

最後は下記の決意表明で結ばれます。


Stay Hungry. Stay Foolish. And I have always wished that for myself.

日本語訳もネットを探すとイロイロあります。Googleでトップに出るのはここ。You Tubeの動画は下記。




2008年11月4日火曜日

三浦篤:まなざしのレッスン〈1〉西洋伝統絵画


今年春に大学生になった息子に、美術論の教科書として使っているけど面白いよと言われ読んでみたもの。確かにこれは良書です。(→Amazon


本書はいわゆる西洋絵画概論ではありません。西洋絵画を観る面白さを理解するために、最低限必要な知識や、その後の「学び方」を概説するもの。本書のスタンスと簡単なガイダンスの後は、「神話画」「宗教画」「寓意画」「肖像画」「風景画」「風俗画」「静物画」という具合に章立てされています。西洋絵画と神話、宗教は切り離すことができず、肖像、風景、静物画は全てそれらの派生として生まれてきたことも説明されます。




絵画は自らの「主観」や「感性」こそ重要にすべきだという意見もありましょう。しかし筆者は(既に無意識のうちに雑多な知識や先入観が本人にあるため)、もはや「視線」は本来決して「無垢ではない」という前提に立ち、

「感性」も学ばれる余地のあること。
他者の模倣から出発しない「独創的個性」は存在しない


と主張します。図版が白黒で少ない(講義ではスライドを映写しているそうですから)ことが少々残念ですが、語り口は平易で非常に読みやすくできています。明日にでも美術館に脚を運びたい衝動に駆られます。少しでも美術について勉強したことのある人にとっては、常識的なことしか書かれていないのでしょうけど。


こうして通読しますと、いかに私(たち)が美術的教養に対して無知であり、美術界が紹介する口当たりの良いジャンルのみをいたずらに受容してきたのみではないかと反省してしまいます。こんなにも面白い教育(教養)が最高学府に至るまで、公的教育機関においてなされていないこと。西洋のみならず自国についても歴史、美術、音楽、芸能などを相互的かつ複合的に扱う教科が存在しないことは、とても残念なことだと思います。公教育に頼らず興味あれば自分で勉強しろということなのでしょうけどね :-p。

図解!あなたもいままでの10倍速く本が読める


世に速読関連の本はあふれています。それほどに現代人は処理する情報量が多いということの裏返しなのでしょう。ですから、繰り返し出ては消えていくこの手の本も、売れ行きが減退することはありません。(→Amazon


本書の目新しいところは「フォト・リーディング」という手法。1ページ1秒くらいでページを脳に焼き付けるのですとか。




フォト・リーディングを効果的に行うためには、「プレ・リーディング」(プレビュー:読書の方針決定)、「ポスト・リーディング」(ポストビュー:反省と深化)も欠かせない、何度も本文に接することによって、本書の理解も深まるのですとか。


斜め読みだろうが何だろうが、同じ本を三度も読めば、そりゃあ理解は深まります。肝心の「フォト・リーディング」となると、私には万人向けとは感じられませんでした。本書を元に何度か試してみましたが、こんなトレーニングを、とてもではありませんが続ける気になりません。この本だけで「フォト・リーディング」ができるようになる人も居ると思えない。そのうえ、「フォト・リーディング」以外は比較的まともなことしか書いていない、世の速読本とあまり変わりはないといった印象。


安易なビジネス本とか、ハウツー本などには、このような速読法は効果的でしょう。私も立ち読みのときは新書や単行本は1冊30分程度です、それ以上は疲れてしまいますし。しかし、じっくり読み込みたい本や、難しい本は速読はしません、というか速読に適さない、速読できない。


結局のところ読書法というのは、今までに蓄積された読書量と読書の質がベースとなって、それぞれが独自に編み出すものなのだと思います。私のように大した読書経験もない者には「速読可能なレベルの本」の数など、たかが知れているといったところ。あるいは、「速読可能なレベルの本」をいくら大量に読んだところで、得られる糧も知れているというと、書きすぎでしょうか。